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僕も大好きな質実剛健を追求するドイツブランド、Sinnの創業者であるHelmut Sinn氏が、102歳で亡くなられたのことだ。

GUINAND
https://www.guinand-uhren.de/home-en.html

ヘルムート ジン、2108年2月14日没、享年102歳。亡くなられる直前まで現在手がけられているGUINANDでの時計開発をされていたとのことで、その情熱たるや余人の及ぶところではない。

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僕はあまり時計をブランドで選ばないのだが、気づくと手元に溜まっているブランドというのが確かにある。Sinnがまさにそうだ。

作り手のメッセージを雄弁に物語る時計は、本当に少ない。Sinnは、一にも二にも実用性を追求し、かつドイツらしい機能美を備える時計を作っていた。

汎用ムーブを載せて高く売るETAポン時計と揶揄する向きもあったが、Sinnに関してはそれは的外れであると僕は思う。ジンほどのメーカーなら、自社ムーブメントを作ろうと思えば難なく作れたと考えるのが自然である。

しかしそれには当然価格の高騰も伴うし、信頼性を担保するのに多大なコストと時間がかかってしまうだろう。結果、本当に時計を必要とする多くの人たちにとって、雑誌やSNSで眺めるだけの"雲上"時計になってしまう。そうなると、実用性からは遠く離れてしまう。

しかし、既に広く生産、販売されているETAを活用することで、まず値段を抑え実用する人々の手に届きやすくしたこと、そして耐久性、精度の信頼性を高め予測不可なエラーを可能な限り排除したこと、最後に、究極的には部品が壊れたら町の時計屋さんでもムーブごと取り換えることも容易な程の高メンテナンス性を確保すること、この三点において明確に選択された判断であると考えるのが妥当だ。

ムーブに余計な手間をかけず、しかし実際に使用者の手に触れ、過酷な環境にさらされる外装へのこだわりは他の追随を許さない。

ケース、オイルを含む素材の独自開発、ガスやハイドロ注入などの画期的な防水機構、エンジンオイルに触れても腐食しない特殊パッキンの採用、抜群の視認性、そのいずれも全ては利用者に信頼して使ってもらうためのとてつもない工夫と努力、そして何より投資の産物である事を忘れてはならない。

大手資本に与するを良しとせず、様々なイノベーションを産み出し、徹底的に現場に寄り添うその姿勢は、多くの日本人の共感を買うところであろう。

ジンは、もっともっと、日本人に愛されるべきブランドだ。

実際に使う人ほど、それを強く感じさせられる。時計に特に信頼性を求める人たちには、ぜひ使ってみて欲しい。


氏の遺志が、数々の実績が、戦火を潜り抜けたパイロットという伝説的な逸話が、何より氏の育てた多くの人間と彼らの作り出した時計の存在そのものという光跡が、これまでもこれ以後も時計に関わる全ての人々を照らし続けると信じている。


ご家族をはじめ関係各位のご心痛をお見舞い申し上げると共に、氏のご冥福をお祈りします。


◇愛用しているSinn 256
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◇Sinn EZM3
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◇Bell&Ross Vintage 126
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