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世間では、一人焼肉だ一人カラオケだと生温いことを言ってはおひとり様上級者などと言うらしいが、なめられたものである。一人焼肉などは肉好き、韓国料理好きにはもはや常識。
僕は駆け出しの頃は風邪を引くたびに近所の焼肉屋に1人で駆け込んでたんまり韓国料理を食い、たんまり寝て、翌朝には治していたものだ。

さて、今回はおひとり様愛好家の読者諸氏でもあまりしたことが無いであろう、

ぼっちフレンチ

である。


食前酒は、メニューを熟読しながら嗜む。
バターは冷えた石の入れ物に詰められていてお洒落で機能的。
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時計は
Vulcain cricket nautical
キチンとした店にもキチンと付けて行ける、どこに出しても恥ずかしく無い時計だ。

まず頼んだのはロブスターのスープ。
濃厚なエキスが芳醇なロブスターの香りを放ち、甲殻類好きには堪らない。口に含むとそれが一気に身体中に広がり、脳が"コレ今美味いもの食ってるで!"モードに即時に切り替わる。
ぼっちフレンチを迷いもなく敢行するこの僕の旺盛な食欲を諌めてくれているようだ。

口に含む前から喉を通過した後まで、僕は旨味の深いスープと、柔らかなロブスターの身の口触りの虜になった。一口目から最後のスプーンにいたるまでまるで顔の目の前でロブスターが微笑んでいるかのような錯覚を覚えた。
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付け合わせにはチーズオニオンバゲット。
コクx香りの組み合わせに、メインばりの満足感を覚える。

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しけしここで満足するわけにも行かないので、気休めにパテを注文。
絶妙の塩加減で、ジューシーさの中にも爽やかさのあるパテ。
本場フランス仕込みのバゲットをペロリといってしまう、危険物である。

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と、ここで徐(おもむろ)に登場したのはメインのアントレであるビーフウェリントン
キタ!つーか、デカっ!!デカいって!!
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これはどんな料理かと言うと、ビーフステーキをフォアグラなどで作られたデュクセルというドロッとしたソースで覆い、その上からパイ生地で焼き上げたもの。それを写真のようなソースに付け合わせて食べる。

…この文章だけでも美味いのが伝わるだろうか?
そう、これがめっちゃめちゃ美味いのである。

ただ美味しいというのではなく、めっちゃめちゃ美味い。

まず、サックリとしたパイ生地にナイフを入れ口に運ぶと、パイ生地のフワっとした感覚がまるでフライ級ボクサーのジャブのように一瞬で消え去り、すぐに繰り出されるフォアグラの強烈なパンチに舌が完全にグロッキーになった。背徳感をそそるこの濃厚な口当たりは、まるで研ぎ澄まされた右ストレートのようであった。

ようやくフォアグラの味が去ったと思いきや、間断もなく襲いかかるは程よくミディアムレアに焼き上げられたビーフ。
実はパイ生地、フォアグラのデュクセルなど一口の中のほんの1/4に過ぎず、その後はひたすらビーフの旨味との闘いとなる。

柔らか過ぎず、硬過ぎず、僕の顎を独り占めして離さない。
そろそろ顎を止めようか…と考えたが、ここで効いてくるのが皿に大量に注がれているソースである。

そうだった、僕は一口目とともにソースも口の中に運んでいたのだった。

ようやく口の中でビーフとソースが解け合うことで、まるで僕の口が欲していたものを知っているかのように、肉とソースはお互いを引き立てあいながら、旨味のスパイラルを形成する。

ただひたすら牛肉は美味い、そういうシンプルな事実、そう、誰でも知っているごくごく根本的な事実を思い知らされるのであった。

ロブスターやパイ生地、フォアグラなどに魅了されていたのはなんだったのか。夢や幻ではなかったか?"牛肉は美味い"、こんな事を忘れて僕は何をしていたのだ。

フォアグラの痛烈パンチを浴びた後のグロッキーな僕は、ビーフとソースのコンビネーションにいいように翻弄されてしまった。

短いリングがなり、ようやく相手の攻撃が止んだ。
一口目を完全に咀嚼し、嚥下したのだ。

これでやっとラウンドワンが終わったのか?こんなのをあと何ラウンドすれば良いというのだ?!

この写真、ビーフもデュクセルも美味そうに見える…だろうか?
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あとはただひたすらに美味い飯と戦い続ける。

ほんとうに、スプーンを口に運ぶたびに旨味が口中で大暴れするのである、解ってはいてもたまったものではない。


数ラウンドを重ね、
白ワインで一休み。ビーフなのに白?!と思うかも知れないが、これでよいのだ。

ふ、と。グラスを傾ける時に、愛用の時計が目に入る。ワイングラスの輝きを静かに写し、ブレスのコマとコマの擦れ合う静かな音を立てる。

そうか、ぼっちではなかった。僕はこいつといたのだ。
ハードな1日を共に乗り切ったこの相棒とフレンチを楽しんでいたのであった…

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メインが去り、デセールなど楽しむ余裕がないほど満腹感と満足感に浸された。

幸せである。フラ語で言うとウールーである。トレウールーである。
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…フレンチはなんとなく敷居が高いが、型にはまっているので意外と気軽に楽しめる料理である。是非みなさんも愛用の時計と水入らずのフレンチライフをエンジョイして頂きたい。


以上、愛用の時計とおひとり様フレンチでしたとさ。