45KSのカンヌキ押さえ交換


さて、以前ジャンクで手に入れてOHして使っていた45KSなのだが、実はカンヌキ押さえが折れていて、時刻合わせをするには微妙な力加減で竜頭を引いた状態で同時に回転させる必要があり、結構不便なのであった。

別にいつでも直せるしいいか…と思っていたのだが、ようやく思い立ってヤフオクで部品を落札し修理する事にした。

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以下が届いた部品。確か送料込みで1700円くらいだったかな・・・?

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裏蓋を開けるとこうなってます。45ムーブは本当に美しい。
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ケースからムーブを取り外す。
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針のクリアランスはこんな感じ。
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平常心を保ちつつ針と文字板を取り外す。表面に波のような文様が入っている事を知る人はそう多くないだろう。
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折れた部品。竜頭を引いた時のクラッチの状態を固定する役割があり、ここが折れたままだと竜頭を引いてもすぐにバネで戻ってしまうので、時刻合わせをしたければ引いた状態をキープしながら回さなければならずとても不便なのであった。
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右側が今回入手した部品。SEIKOのムーブメントの大きな魅力の一つは、こういった部品が大変安価に手に入る事である。これがもしJLCやOMEGAなどになれば、まあ30,000円は覚悟しなければならない。しかも最近は円安が激しいのでそれでは済まない。
しかし、見るからに折れやすそうな形してるなァ…
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乗せ換えて、ムーブメントのよごれやくすみを取ったらこんなに綺麗になります。
美しい。。。両持ちブリッジや角穴車の加工、直線的な受けの形状、大きなテンプ…
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物によってはシリアル番号のような金文字が入っているムーブもある。これは残念ながら入っていない。しかしほとんど整備された事がないみたいで、とてもきれいな状態のムーブメントであった。
尚、化粧用の綿棒のようなものにクリスタルガードを塗り、時間が経った後にふき取っている。これにより、新品の時以上の輝きと深みをえらるのである。どうせ蓋するから誰にも見れないけど…w
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おしまい。ベルトも実はヤフオクで合わせて買ったもの。どこかの誰かの手作りバンドだと思うのだが、少しいびつな形が逆にこのVintageの雰囲気に合ってていいなあと思ったのでした。
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このムーブメントは特別な調整をせず、OHしただけで日差1-2秒くらいで、精度は恐ろしいものがある。現代にこのムーブメントをそのまま蘇らせたらいいのに。

以上、45KSの部品交換のお話でした。

『クロノス日本版』20周年記念パーティー

時計雑誌といえば洋の東西を問わずいくつもあるが、密度・クオリティ・情熱・深さ・広さどれをとってもクロノス日本版は図抜けていると思う。しばらく電子書籍で購読していてやはり紙で読みたいという事で定期購読していたのだが、この度創刊20周年記念にパーティーを開催されるというので、幸運にもご招待に預かり、分不相応な身ではあるがありがたくも参加させて頂く事となった。

場所は赤坂。江戸時代には紀州徳川家の屋敷があり、近代では韓国併合時に設立されソウルの昌徳宮を本邸とする李王家の別邸として1930年(昭和5年)に建てられ今も尚現存する建物である、赤坂プリンスクラシックハウスであった。なんと立派な建物だろう。

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会場内はとにかく熱気に包まれ、みんなとてもいい笑顔であった。パーティーというのはまあすべからく皆さん笑顔で出席なさるものだが、このパーティーの笑顔はちょっと違う。本当に時計が好きで、心からこのイベントをお祝いしたいと考えているのが顔に出てしまっている、我慢できない類の良い笑顔であった。

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会場に入ると、このように最新号のパネルがお出迎え。『時計産業の過去、現在、そして未来』とある。ここに飾られているこのコピーが、今回のパーティーの裏テーマであると僕は理解した。

このコピーが示すように、Chronosの素晴らしいところは自社だけ、ひいきのメーカーだけ、というわけではなく、「時計産業」を盛り立てていこうという気概が随所に感じられる所である。その上にとんでもなくマニアックな情報(例:このムーブメントのこの部品はOH時に交換リストに入っているとかそういうの)が掘り下げられているので、手練れの時計好きもニッコリな濃厚さも兼ね備えているのが堪らない。

あれだけの頻度であれだけ濃厚な雑誌を作る(かつWEB Choronosも更新している)というのはもはやどうやっているか分からない。編集・印刷に関連する皆様の不断の努力、執念というべき使命感の帰結として生み出されているのであろう、毎号毎号手に取るたびに興奮しながら読ませて頂くのは、時計好きとして無上の喜びである。

会場に一歩入った瞬間に、時計好きの皆様がいかにこの雑誌を愛し、かつ敬意をもって接しているかを感じる事ができた。そしてその思いは会場を後にするまで強まるばかりであった。


しばらくして、セイコーウオッチ株式会社の内藤社長が壇上でスピーチ。このあとケンコバも壇上でスピーチしてて、有名芸能人である彼のお話もとても面白かったが、内藤社長に向ける会場の視線はそれ以上に熱いものを感じたのが印象的であった。

「Chronosは戦友のようなもの」と壇上の内藤社長がおっしゃっていた記憶があるのだが、この披瀝は偽らざる本心だと言ってよいのではないか。日本のブランドがラグジュアリーを押し出して世界と渡り合うのは、途方もない苦労と困難があった事だろう。そんな中で、業界を俯瞰して忌憚のない意見をぶつけてくれる、そしてブランドのメッセージを完全に理解して拡散してくれるChronosの存在は、まさにそのようなものであったと思われる。

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会場のわきにふと目をやると、、、なんと!!?KODOが鎮座しているではないか!しかも自由に触っていいし写真撮影もしていいですよとの事。なんと驚き…!存分に堪能させていただいた。残念ながら会場の騒音のためコンスタントフォースの独特の駆動音は聞こえなかったのだが、この手に取って触れただけでもう大満足である。(なんか途中からKODOが2つに分裂していた記憶があるが飲み過ぎてみた幻覚だったのかもしれない)

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会場を見渡す、僕はオフ会にもほとんど(というか全く)出られないので、誰が誰やら全く分からず完全Awayである。にも拘わらず、腕もとを見ると「あれ?これあの人かな!?」というのが何となくわかるのがまた面白いポイントである(反対に、僕の時計を見て「●●さんですか?」と話しかけてきてくださった方も何人かいらっしゃって感動した)。

Instagramでずっとフォローしていて、「カッコイイなあ、、、」と漠然と思っていたコレクターの方と出会えたり
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HODINKEEの関口さん、和田さんとお会いしておしゃべりできたり…

たまたまテーブルで時計僕の持ってきた時計について話をしてたら、横で熱心に聞いている若者がいて、「若いのにこんなマニアックな時計(Zenithのエルプリパシフィック)についての話をこんな熱心に聞くなんて…なんていい方だ」と思いながら「SNSとかやってますか?」と訊いたら、なんとそれが某超有名コレクターだったり…(右腕に45GS、左腕にPP3970(たぶん)を巻いてらっしゃった…笑)

もちろんお祝いの席なので皆様ばしっとドレスアップしてらっしゃったし、関係者へお祝いの言葉をかけてらっしゃったのだが、一方でいたるところで時計オフ会が開催されているような状況で、なかなかのカオス…あるいは蟲毒…であったw                                            

『目の前にいる人が誰か分からないがなぜかどんな時計が好きか知っている』『はじめましてとあいさつしたばっかりなのに、ずっとXでフォロー・フォロワーだった』『少し飲み物を取りにいき、横にいる人に話しかけたらたまにコメントさせて頂いているWebChronosメンバーサロンの重鎮だった』『再会したかった時計コレクターが来場している事に閉会後退場しているときにようやく気付いた』『日常生活ではまず見ることのないランゲの時計を巻いてる人がその辺に密集している』『若き時計師、あこがれの時計師と会えてセルフィー撮れた』『二十歳そこそこの若者から70は数えるのではという大御所が普通にクラスの友人のように会話している』『クロノス編集者の皆様が芸能人のように引っ張りだこになっている』『目の前の人が多分凄い事は分かるのだがどれくらい凄いかよく分からない』『会場の熱気がすごすぎてコミケ雲のような蒸気が見えた気がする』『昔インスタを始めたときにフォローした、ものすごいおしゃれな写真を上げててしかもロイヤルオークを巻いている雲の上の韓国人モデルだと思ってた人が目の前に存在している(しかも時計を作っていらっしゃる)』『事前に参加者が全く分からないため、終わってからSNSを開いたとき、ものすごく会いたかった人が来ていた事に気づく』『終了時間を過ぎても盛り上がりすぎて、時計コレクターたちが羊飼いに追いやられる羊のように徐々に出口に追いやられる』『編集長が出口付近で写真撮影していたので、携帯もってる人によければ撮りますよーと声をかけたら、”あなたも入って!”と言われよく分からず入ったらとんでもない重鎮たちの集合写真だった』


…などなど。おそらく今後10年はないであろう非日常な空間でとても楽しいひとときを過ごさせて頂いた。


Chronos日本版の皆様、おめでとうございます!これからも楽しく拝読させて頂きます。そして、これだけの面々を一堂に集めパーティーを開催するのはとても大変だったかと思います、お疲れ様でした&ありがとうございました。皆様のお身体第一、ご家族第一に今後のご活躍を祈念申し上げます。


シンプルながら思いの詰まったLONGINESの時計。
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著名な彫金師の方とリストショット
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人生の新たなステップの記念として購入されたというIWC3針
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著名な画家に文字板のペイントを依頼したというスペシャルなスピマス
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あらゆる時計へのこだわりを詰め込んで非常に限定的に生産されているAV-98
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僕の今回のパートナーはWittanuerのFutrama 1000と呼ばれているモデル。ダブルレトログラードの左右非対称な見た目が特徴で、僕が最初にWatchismoというサイトで見て衝撃を受け、いつか手に入れたいと願っていた時計、、なのでした。「こんな風に時間を表示してもいいんだ!」と驚いたのが、今の時計嗜好に未だに大きな影響を与えております。




東京タワーとMemovox E855

それだけ。

黒い背景に黒い文字板が映えるなあ

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この時計は、ジャガールクルトの Memovox e855の黒文字板である。大変レアで、かつ、僕の考える一番カッコイイ時計のひとつだ。僕は『Black Knight』と呼んでいる。

黒文字板にも実は数種類あり、これは夜光のドットが無いモデル。元々あったのが落ちたのではなく、「ない」バージョンが存在するのだ。スイスのジャガールクルトの博物館の画像で見たから間違いない(僕がそこを訪れたわけではなく、訪れた人の撮影したE855の文字板のレパートリーを展示したパネルで確認した)。

ブレスレットはオリジナルのGay Freresブレス。シャリシャリとした軽い感覚、きらびやかで曲線的な外観が特徴の当時物のブレスレット。軽いため強度があるわけではなく、現存するのは比較的レアである。

夜光の入ったドーフィンハンドの針と、外周から内周にかけて直線的に配置されたインデックスがチャームポイント。このインデックスは途中で曲がっているため色んな方向の光を反射し、視認性向上に貢献している。

あこがれ続けた時計に、ふさわしいブレスレットを装着して手首に巻く。この瞬間は、何度体験しても何とも言えず感動するものだなあ。

Jovial Vision 2000 との邂逅

その昔、僕が時計を好きになるきっかけになった、あるWebsiteがある。『Watchismo』というWebsiteで、古今東西の珍しい形の時計をブログ形式でいろいろ紹介しているサイトであった。
その後Watchismoは時計販売サイトとなり、今はWatches.comと名を変えている。ちなみに当時もビンテージ時計の販売はしており、今考えるとかなり珍しい時計が安く売られていてお得であった。

その中で、かつて『こんな広告見つけたけど・・・・なんだコレ!?』という感じで記事で取り上げられたとある時計があり、僕はその時計がずっと気になっていた。

1970 Jovial Vision 2000 - Today's Time with Tomorrow's Styling
https://watchismo.blogspot.com/2007/07/1970-jovial-vision-2000-todays-time.html


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かなり変な形のこの時計、その名を Vision 2000 という。Jovialという、今も続くスイスの時計メーカーが大昔に作ったモデル、らしい。

その後海外のフォーラムなどで話題になることもあったが、実物がほとんどなく、Webに資料が全くない。しかしその異形から、僕のようなスペースエイジな時計好きの間では幻の時計としてしばしば語られる事もあるモデルであった。

僕もずっと探していたのだが、どうやら上記の広告を作りバーゼルワールド(1969? -  1970?)に出展したが、その時に販売したプロトタイプのみで回り、一般販売はなされなかった、という説があり、きっとそうなのだろうなあ、と思っている。

※追記
昔のEuropa Star(時計情報誌)のアーカイブを見ていたが、VISION2000の広告が最初に登場するのが1968年。そして、1969年のバーゼルにはJovialは参加しておらず、1970年のバーゼルフェアに参加していることが分かった。(なんとブースはRolexのすぐ裏w)

この時に、販売までこぎつけられなかったプロトタイプが持ち込まれ、展示販売されたのではないだろうか?そして、日本のヤフオクで出た事があるというのは、この時バーゼルフェアを訪れた時計関係者の日本人が「お、ナイスデザイン」みたいな感じで買い上げ、日本に持ち帰り忘れ去った…というのはありうるだろうか。僕は大いにありうると思うのです。


1970年のバーゼルフェア参加企業に、Jovialの名がある↓
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会場のマップ。Rolexの真裏にJovialが位置している。
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 --- 追記終わり ---



だがしかし、探しているとたまーーーにebayで見かけることがあった。なんとなく5年に1度くらい?かな?そして実際に出品者と会話しつつ落札するチャンスがあったこともあったが、状態が非常に悪くかつあまりに値付けが高いために見送っていた。

んでこの度、ようやく満足のいく個体に巡りあい、手に入れた。

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どうだろうこの異形…。まるで宇宙服のヘルメットのような形状で、下から文字板と針をのぞき込む必要がある。かなり横長の楕円形で、およそ従来の時計とはかけ離れた見た目をしている。

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レバートリーとしては白文字板や金ケース、針に夜光がついているもの、そして日付表示のあるものまで存在する。以下拾い画像であるがいくつかご紹介。
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このモデルはイタリアのさるコレクターのものらしい。
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幸運にもフリーマーケットで入手した、という持ち主。
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その筋では有名なHorolovoxさんのインスタでも彼のコレクションとして登場。これも夜光・日付アリで、よく見るとインデクスに夜光のドットもある。ただし、ケースはほかのSSがヘアライン加工されているのだが、これはポリッシュ仕上げである。再メッキされ磨かれたのか、あるいはカレンダー付のバージョンはポリッシュ加工のバージョンとして存在したのだろうか!?(↑のイタリア人のものもおそらくSSだが、元はポリッシュかサテン加工っぽく見えなくもない)
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以前ヤフオクで出た個体。そして多分これが一番状態がいい。文字板なんて完全MINT…ヤフオクで出たという事は日本人が落札したと思ってるのだが、果たして今はどこにあるのか…
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まあ、困ったことに…ほんとに数が少ないのである。上記にあげてる個体も比較する同じモデルの個体が無いので、本当に何もわからない。仮に各色の組み合わせ1個ずつの販売だった、と言われても納得できるくらい、本当に数がないw

唯一、SSx白文字板、カレンダー無しは、↑のように二つ個体が確認できるので、ほかの組み合わせのものも複数あり、どこかの蔵で眠っているか、土に還っているのであろう…。

そんなこんなで幸運にも僕が手にしたのはSSのヘアライン加工、青文字板のカレンダー無し、という組み合わせである。もちろん、ほかの個体をネットで見たことがない。これからも見ることは多分ないであろうw

実際に手にした感想は、
  • 思ったより横に長い
  • 思ったより作りがしっかりしている
  • 蓋がパカパカ動くw(なので、プロトタイプという説は正しいと思っている)
  • 意外と時計が見やすい
  • ってか可愛すぎる…!!
というわけで、ひとしきり愛でたので、早速OHへ。。。。(手に入れてからバラすまで2時間w)

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トケマッチとは何だったのか

何だったのか、も何もない。捜査の中で貸出し実績がないというのが明るみとなり、計画性の高いポンジスキームである事が明らかになったわけで、まあ詐欺事案だった訳です。ネット上で時計を預けた人を非難するポストも見かけるけどそれは事後孔明というやつで、詐欺の被害者という事で大変気の毒に思うより他にない。

と、結論が最初の2行で出てしまうのだが、この事件には、非常に興味深い点が一つある。
それは、だまし取ったのが現金ではなく時計だったという点である。

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マネーロンダリングと時計
僕は常々、時計の世界というのはマネー・ロンダリングと非常に親和性が高いと考えていたし、以前、WebChronosのメンバーサロンで腕時計とマネー・ロンダリングについて何回かに渡って長文を書いた事がある(最下部にリンク掲載。ぜひみなさんもWebChronosに参加してみてください、濃いですw)。

マネー・ロンダリングの入り口には、略奪や詐欺、強盗など犯罪行為やによる収益があって、次にそれをいかに『普通に使える』クリーンな金にするのかが来るのだが、普通、腕時計がダーティーマネーに関わるときは当然ながら現金⇒時計の流れでマネロンスキームに組み込まれ、どこかで時計⇒現金という出口にたどり着く。

翻ってトケマッチは、『いきなり腕時計』である

報道にある数字をよむ
直近の報道では、今年の1月を中心に在庫(?)を売りさばき、およそ1億円ほどの現金を作ったとあり、その後首謀者は会社を解散、住居も退去後にドバイに高跳びした、とある。尚この記事は非常に詳しく書かれていて、被害者グループの人数は「190人」、判明している不明分は『866本(計18億4000万円相当)』との事だ。

それぞれの数字を見ていこう。

まず、『1億円ほどの現金』である。これを多いとみるか少ないとみるかは難しい所だが、高跳びして国際手配される身としては、まあ涙が出るほど少ない、と言っても過言ではないだろう。しかも行先はドバイである。青天井のお金持ちが悠々自適に過ごす楽園である。実際にはもう少しあるだろうが、激しい円安のこのご時世、資金は2年も持たずに底をつくのではないだろうか?

次に、被害者グループが『190人』。これは、スキームの規模を考えれば予想外に少ない数字である。あれだけ人生をかけて、シェアリングエコノミーという時流に乗ってTVCMを打つなど壮大な仕込みを行い詐欺を敢行しても騙せたのはたったの190人なの!?とさえ思った。

ちなみに、僕のTwitterは1500人くらいの人にフォローされている。僕のつまらない呟きを好き好んでフォローする奇人たちであるが、まあ、それでも1500人は居るわけだ。この規模のポンジスキームにしては、非常に少ない人数だという印象を受けるし、それが被害発覚が遅れた(っていうか会社を潰すまでに時計を集める時間が十分とれた)ポイントだったのかも知れない。

んで、行方不明な時計の『866本』という数字。これを被害者の数(被害者グループ+αとして200人とする)で割った場合、一人当たり4-5本を預けていた、という算段になる。毎月の配当金が欲しいばかりに借金をこさえてまで時計を預けていたという人もいるくらいだから、まあ中央値で一人だいたい2本くらい預けていたのではないかな、と思っている。高級時計ってやはり一本だけ持っていても物足りないと思うのが普通の人だと思うので、まあ普段使いの時計を一本残し、あまり使わないものを預けて配当に与ろう、という人が結構いたんじゃないかなあと想像できる。

そして最後にそれらの価値、『計18億4000万円相当』という部分。これがひっじょーに気になるのである。

盗品の(物理的な)重さと国内での在処について
現在判明しているだけでキャッシュでおよそ1億円。たぶんまあ判明していないのがその3倍あるとしても合計で4億円くらいは換金されているかもしれない。それでも15億円ほどの価値が、まだ時計の形をしてどこかに存在している訳である。これには首謀者の福原某も頭を抱えているのではないだろうか。

腕時計は、時計単体でも実は結構重い。プラトナだと300g近くある(びっくりドンキーの300gハンバーグを思い出してほしい)というのは有名だし、SSのデイトナでもその半分くらいはあるだろう。18億円を866で割るとだいたい200万円の単価となるが、それなら相当数の貴金属の時計が含まれているだろうから、まあ平均は200gとしよう。200gx800本で、160kgである。しかも、ほとんどの場合は箱やら紙袋やら保証書やらと一緒に預けていただろうから、それらを含めると全部で400kgくらいはあるのではないだろうか。

こんなもの飛行機で運べるはずもないし、頑張って10本くらい持って行ったとしても税関で引っ掛かるリスクもある。日本のどこかに保管していると考えるのが自然である。

その保管されてる在庫を現金化しドバイに送金するスキームももちろん準備されていたとは思うのだが、それが一体どのように行われるのかという点において興味が尽きない。

現金化する方法とは
日本で業者に売り込むのは不可能だろう。詐取された時計のシリアルは集められて業者に共有されているだろうし、当然ながら大手のバイヤーやオークショニアには警察から相応の要請が入っていると考えらえれ、非常に警戒しているに違いない。

ここまで読んで、一旦、手を止めて考えてみてほしい。あなたなら、どのように現金にするのだろうか。手元に800本の高級時計があり、店に売りに行くことはできない…こういう場合、マネー・ロンダリングならぬウォッチ・ロンダリングが、どう展開されるのだろうか

・・・おそらく一番可能性が高いのは、個人間取引による現金化かな?もちろん、こんなに報道されている中で手あたり次第に買い手を探しても上手くいかないどころか自分たちの身が危険になるため、時間をあけて少しずつメルカリやヤフオクで流していくか、ダークマーケットに投入するか、という事になるだろう。

もし首謀者グループにツテがあれば、一番合理的なのは海外の顧客に売りさばいてしまう事だろう。たとえば、中国から団体でやってくるツアー客に安く時計が買える店があると持ちかけ、詐取した時計を安価に販売する。これなら顧客は安価に本物の高級時計が買えてハッピーだし、首謀者は現金が手に入りハッピーである。あるいは、密輸で少しずつあるいは大量に東南アジア某国、あるいは首謀者の逃亡先であるドバイなどに運び、そこで売りさばくという手法も考えられる。

(余談)最も恐ろしいのは、首謀者の福原某がただの操り人形だったというケースである。この詐欺はすべて黒幕が考え福原某に指示通りに実行させたものであり、時計は黒幕のマフィアなり半グレがまとめて買い取り、彼らの中の、あるいは海外の独自のネットワークだけで販売するとなったらどうであろうか。仮にトケマッチが詐取した時価15億円相当の時計を黒幕が5億円で買い取ったとして、それをさらに8億円、つまり市場価格の半額程度で仲間内にだけ販売するとなれば、黒幕はほぼノーリスクで3億円儲け、買い手は安く高級時計が手に入り、福原某は5億円+売り抜け分のキャッシュ数億円の収益を手にするわけである。もっともこの場合福原某は切り捨てられた駒のようなもので、後述する通りドバイで早晩立ち行かなくなるであろう。下手すると自殺にみせかけて口封じに殺されるかもしれない。黒幕の発案者は天才的である。ま、こんなシナリオがあったら映画だけど。

時計の在処をどう見つけるか
が、いずれにせよ800本もの盗品高級時計を直ちに現金化するのは非常に難しそうに感じるし、仮に現金化できたとしてもその資産をどう移動させるかというのも同じくらい難しい。被害に遭った時計はしばらくは国内のどこかに積みあがって放置されるのではないだろうか。そしてこの場合は国内に協力者が欠かせないと見られる。
もしも協力者が居るならば、首謀者の身辺調査から怪しい人物を割り出すのはそう難しくないであろう。割り出してしまえばあとは泳がせておけば時計のありかは掴めるかもしれない。嘘か誠か、近頃時計の保証金が振り込まれたと主張する人物も現れたので、これが協力者による振り込みだった場合は徹底的に追跡される事になるだろう。

もしも協力者がいないのであれば、時計は既に「売却あるいは密輸されている」か、本当に「ただ放置されている」。トケマッチは2023年末より預かり強化キャンペーンを打って時計を集めたあとすぐに会社を潰して逃げているため、どの程度密輸で越境移転させる暇があったのか甚だ疑問。海外に流れてしまっている時計はまだまだごく一部でほとんどは国内にあるのではないだろうか。送られてきた時計を移動させる際の監視カメラなどのデータがまだ多く残っていると考えられ、首謀者の行動調査から時計が置かれている場所の判別も可能となるかもしれない。

勝利条件と敗北条件
200人ほどの被害者の方々の勝利条件は、『時計が戻ってくること』。毎月の配当金をすでにもらっているため、もし時計(あるいは賠償金)が戻ってくれば詐欺の被害に遭ったが利益が出た、という奇妙な事になる。無論その利益は、だまし取った時計を売約した利益なのであるが。おそらくその勝利条件のオプション程度で、『首謀者の逮捕』というのがあるだろう。

翻って福原某の勝利条件が中々厳しい。『ドバイで捕まらない事』はもちろん、『1億円のキャッシュの目減りを防ぎドバイで生活基盤を構築すること』、『いつか日本に帰る事』、『日本に残してきた時計が見つからないよう保つ事』、『日本に残してきた在庫の現金化を行い、その収益を自分に移転させること』、『協力者の逮捕を避ける事』あるいは『黒幕に殺されない事』などウルトラハード級の勝利条件を背負って生きていかなければならない。裏返せば、これらのすべてが敗北条件であり、それをすべて回避する必要がある。無理ゲーである。

浜の真砂は尽きるとも…
ポンジスキームは非常に強力な仕組みであり、金融商品はもちろんのこと仮想通貨からエビ養殖、はては和牛なども組み込まれた事がある。原理的に根絶は不可能なのだ。それがたまたま、高騰&希少化が進む高級時計に焦点があてられただけである。それだけに、ただでさえこの風潮を快く思っていなかった多くの時計愛好家の胸を痛めている。

はたして何人が勝者たりえるのか、首謀者の福原某は今後どう立ち振る舞うつもりなのだろうか。僕のような時計愛好家には特に、目が離せない事件である。


彼らが愛しているのは、時計か、カネか。(1)
https://www.webchronos.net/sns/?m=pc&a=page_fh_diary&target_c_diary_id=77162

時計雑誌の編集者というお仕事

カテゴリ:
一昨年から、縁あって時計雑誌の編集者・ライターの方々とお話しする機会が、ぽつぽつとあった。

もちろん彼らはプロフェッショナルなので時計の知識はすごいし、書いている文章もとても勉強になるし、ちゃんと事実を裏どりして書いてくれているので安心である。

そして、実際にお会いして話をしていたら、書物に書いてあることの数倍濃いお話をしてくださる。つまり、彼らの経験や知識をオレンジジュースのようにぎゅっと絞って絞って、いろんな事情で出せないものを取り除いて、きれいにパッケージングして値段をつけたのが、我々が目にする彼らの『仕事』である。

しかし、これって凄いことだよなあ、大変な仕事だよなあ、といつも思うわけです。

何故なら、彼らは誰よりも時計に詳しいかもしれないが、きっと時計好きの誰よりも、『自分の好きな時計』に拘る事ができないと思うから。

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(手がおかしいのはAIのせいです)

どういう事か。

彼らの仕事は日進月歩で進化し、目まぐるしく情勢の入れ替わる時計業界の最新情報を常にとらえておく必要がある。ので、常にアンテナを高くかかげ、膨大な情報を処理し、新しいことや人に取材をし、記事化する必要がある。時計業界で最新情報を幅広く常に追い続けるって、どれだけ大変なことか想像がつくだろうか?

自分の好きな時計、ひょっとしたら自分の持ち物についてすら、振り返ったり、ゆっくり愛でたりといった暇もないのではないだろうか。そして、会社もそんなものは求めない。なぜなら、読者にとって価値がないから。

たぶん、自分の苦手な分野についても情報を追い、取材し、記事化し、その記事について誰かに怒られないといけない。その度に「こんなもの俺だって書きたくないよ」と、心の中でだけ呟くしかないのかもしれない。

もしも自分がただの時計好きなら取り上げもしない、目もくれない、自分にとって全くどうでもいい時計についても、だれがどういう意図で発売し、どう出来上がっているか、どの写真が一番マシに見えるか、噓をつかない程度にどう魅力的に書くか…というのに頭を悩ませる必要もあるのだろう。

そしてもちろん彼らは公平な立場からものを書く義務があるため、自分が好きなブランドを感情をこめて賞賛するような文章を書くことができない。いや、ひょっとしたら少しはあるのかもしれないが、そうすると今度は他方から文句を言われることを覚悟しなきゃいけない。

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(最近買ってOHしたSEIKO 45-7000。精度が異次元に素晴らしい。もちろん本文とは関係ない)

きっと、彼らの真似なんて誰にでもできるものではない

時計が好きだからという理由でやってみようとしてもすぐにやめたいと思ってしまうんじゃないかと思う。少なくとも僕には、手持ちの愛すべき時計たちを端において、そんな時計たちを眺める間もなく最新の情報を逐一追って行って調べなきゃいけないなんて、とてもじゃないが無理だ。

じゃあ、僕と、編集者の方々は何が違うのか?

思うに時計雑誌の編集者とは、『自分の好き』を犠牲にして、まだ未知のもの、いつか誰かの『好き』になるものの探索に身をささげている、いわば『殉教者』のようなものなのかもしれない。だからこそ、大人な時計愛好家の皆様から、尊敬の念をもって迎えられ、賞賛され、慰労されていると思うし、もっとされて欲しいと思っている。

彼らが探索を行ってくれるから、それを市井の時計愛好家が活用し、愛すべき時計を新たに発見し、学び、ゆっくりと自分のコレクションを楽しむことができるのである。たぶんこれは時計だけじゃなく、もちろん、音楽雑誌や、クルマ雑誌の編集者にも通じる事なんだろうなあ。

僕は彼らに敬意を抱いている。そして直接お会いして、なおさらその思いを強くした。


願わくば、世の時計愛好家の皆様も、彼らの仕事への対価としてお金を払うことで、つまり本を買うことで、その思いを示してほしいなと思う次第でございます。そして彼らの会社には、高騰するスイス時計のように彼らの給料を毎年5パーセントとか10パーセントとか上げていってほしいなと、思うものです。


※余談ですが、以前ある時計雑誌編集者の方と飯を食いに行くのにクルマを運転した事がある。そのとき、毎日時計漬けで疲れているだろうから、何か時計以外の、気が楽になるような話題がないか探していて少し言葉に詰まってしまった。そしたら、先方から、ヨーロッパで取材した時計メーカーの未公開の話をしてくださった。きっと、僕が知りたそうな情報を選んで口にしてくださったのだろう、申し訳ないなと思うと同時にこれがプロなんだなあと感心させられたのでした。

腕時計にまつわる二つの奇譚



世の中は広いようで狭いもの。
僕が実際に体験した、腕時計に関わる2つの奇跡的な出来事を紹介したい。

まずはこの画像。
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数年前、ある海外の島に旅行した際に、滞在していたリゾートホテルの朝食ビュッフェのときに撮った一枚。

時計はBELL&ROSSのVintage 126。ハイグレードのValjoux 7750をベースとして2カウンターにしたもので、機械の精度は抜群。ダイアルはその名の通りビンテージ時計にインスピレーションを得たデザインをしており、シックな黒文字板にどこかレーシーな風情も相まってよくまとまっている。ケースもさすがBELL&ROSS、少し大ぶりではあるがシャープで装着性も良い。革ベルトがついてきたのだが、この画像ではスピードマスター用?のブレスレットを無理やり装着して使っている。

ほんとうに何気なくとったリストショットだったのだが、この画像の右奥に、コーヒーを飲んでいる女性が映っている。

なんとこの写真を撮った二年後、このたまたま背景に写りこんでいる女性が、僕が東京で社会人として就職したばかりの時の同期だったという事が分かるのであった。

実はこの写真を撮った時、サラダバーにサラダを取りに行くときにこの女性をちらっと見た。そのとき、「あれ?どっかで見たことある気がする」と思ったのだが、先方も僕をちらっと見ただけで特になんの反応もなかったし、まぁどこかの誰かの他人の空似なのだろうと判断した。そして月日が流れ、同期同士でLINEか何かで会話する流れになったのだが、たまたまその女性が、2年前にとある海外の島に行ったことがある、と発言した。僕も同じ時期に行ってたので、『同じ時に僕もいたなあ』と思い、その時の写真を見返した。そしたらこの一枚が出てきて、『あれ?まさかあの時の…!?』と思い慌てて本人に、何年の何月何日、〇〇というホテルに泊まっていなかったか訊いてみたら、まさかの『え!?多分それあたし』。

画像を見せたら、疑いようもなく本人であった。ご丁寧に娘さんはこちらを眺めていた。新卒の時共に研修を受けた同期が、東京から何千キロも離れたとあるちっぽけな島の、さらに幾つもある中の同じリゾートホテルに同じ日に滞在し、たまたま隣のテーブルで朝食を摂っていた。こんな偶然あるのだろうか。いや、僕にあった位なのでそこら中にありふれた偶然なのであろう。

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ではつぎの話はどうか。

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これまたとある海外のとあるデパートでの出来事だった。

僕は同行者がお手洗いに行くというのでトイレの外で手すりにもたれて待っていた。するとすぐ右に、同じように手すりにもたれ連れを待っている現地の人がいたのだが、僕は彼の腕に光った時計を見逃さなかった。現行のJLC Memovoxである。僕はブログで度々書いている通り、Memovox E855の信者であり、その日も腕にE855を巻いていた。

なんたる偶然。Memovoxをわざわざ巻いているという事は時計好きと見てまず間違いないため、お互い暇であろう待ち時間でもあるので思い切って声をかけてみることにした。

"Excuse me sir, I just noticed the watch on your wrist,, is that Memovox? (すみません、あなたの腕時計について気になっているのですが、それはMemovoxですか?)"

"Ah yeah, correct. I love this watch! You like watches? (ああ、そうです、僕のお気に入りなんです。あなたも時計が好きなんですか?)"

みたいな感じで返してくれたので、僕は自信満々の顔で腕を上げて自分のMemovoxを見せた。彼はとても驚いた顔を見せ、次の瞬間相好を崩していつの時計なのか、どこで手に入れたのか、もっとよく見せてほしい、などと楽しい時計談義が始まったのであった。

お互い同行者がまだ出てこなかったため、Memovoxの話が落ち着いた後にお互いの仕事の話などになった。まあ初対面なので会社名も、もちろん自分の名前も明かす事はなかったが、僕が普段している仕事の話や業務形態、ロケーションなどをつらつらと話をしていたら、ふと相手が真顔になって固まっている。なんかマズイ事いったかな?と思った次の瞬間、彼は僕の話をさえぎって低い声でこう言ったのであった。

"Wait, are you... XXXX-san? (XXXは僕の苗字)" 

いきなり、僕は自分の名前を当てられ酷く驚いて狼狽した。どういう表情をしていたかも覚えていないが、混乱しつつも「え?まあ・・・そうだけど、なぜそれが分かったの??」とつぶやき、自分の持ち物にひょっとしたら名前が書いていたのかもしれないと思いきょろきょろと辺りを見まわした。

すると相手は目を真ん丸にしながらこうまくしたてた。

『XXX-さん、実は先月、△△国からWEB会議であなたのチームと会議をしたものです!!お互いビデオもONにしていたのであなたの顔を覚えていました!』

結構な数のWEB会議で初対面の人と話をする事があるので僕は申し訳ない事にいちいち相手の顔を覚えていなかったのだが、言われてみると目の前の人物とZOOM越しに話をしたような記憶がよみがえってきた。

"What a small world! I can't believe it (なんて偶然なんだ、信じられない!!)" と僕は声を抑えて叫び、全く意図せぬ再会を喜び合ったのであった。インスタも交換し、彼のコレクションも見たがまごうことなき時計愛好家のそれであった。FkuXNteUYAEl-f6


海をまたいで商談した相手と、外国のあるデパートの、ある階の、トイレの前で、しかも同行者を待ちながら、しかも腕に同じ時計を巻いて、僕から話しかけて再会したのであった。場所は同じでも、もし僕が時計を見逃していれば起こりえなかった。いや、時計に気づいても、僕がMemovox以外の時計を巻いていたらあえて話してなかったかもしれない。もし時計の話をしていても、どちらかの同行者が先に出てくればそれで「じゃあね!」と、話が終わっていたかもしれない。でも、そうはならなかった。奇跡的な再会は、ちゃんと果たされた。

こんな事ってある?

こんな事があるのが、リアル社会であり、こんな事も起こせてしまうのが、時計愛好家同士の奇縁というものなのであろう。


以上、非常に印象深い、腕時計に関する2つの奇譚のご紹介でした。

Wittnauer Cal.10WA搭載、1950年代アラーム時計のオーバーホール

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少し前の話になるが、ずっと気になっていた時計がようやく入手できたので早速手入れすることにした。

この時計、昔とあるビンテージ時計店で見かけたことがあり、その時時計師さんが言うには「この時計はそこらへんの時計師が触ったらたいてい壊されます」と言っていたので、いざ時計が手元に来ても自分で触るのはとても怖かった。しかし整備しないと使えないため、細心の注意を払って手入れしよう!と決心したのであった。

しかしいざとなるとどれだけ探しても分解する手順がどこにも載っていないため、大変慎重にばらし方を考える必要があった。2日間くらい時計とにらめっこして、どうすればもっとも時計にダメージを与えるリスクを減らせるかを考えながら、ばらす方法を考える。

結果、どこかの海外サイトで、ベゼルを外した後の時計の写真があり、それをよーーく見ることでベゼルがはめ込み式であることがわかった。なので、このようにマスキングテープを貼って養生し、ゆっくりと、まっすぐコジアケを差し込む。すると・・・このようにベゼルが浮き、取り外せるようになるのであった。
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こちらがベゼルの裏。この時計、とても変わっていて、ベゼルを回転させることでアラーム針を回しセットする。しかも、同時にアラーム用のゼンマイも巻き上げるのである。↓の内側には、ベゼルの回転をムーブに伝えるための歯車が見て取れる。
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ベゼル、風防を取り外したところ。文字板の細かいギョーシェが美しい。かつ、インデックスが三角形、いわゆるシャークトゥースの形になっていてとてもカワイイ。アラームインジケーターはウネウネのサーペント針で、青焼きが施されている。
この年代のビンテージ時計で、長針と短針の夜光がこれだけきれいに残っているのは…奇跡ではないだろうか。
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ものすごく状態がいい。このモデルは防水性も低いため、たいていのモデルは湿気にやられ文字板に錆や汚れなどのダメージが浮いているのが常である。よーーく見ると、スモセコのインナーダイアルに子擦り傷がある。この理由は後でわかる。
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ほれぼれする美しさ。なお、文字板の周りに銀色の金属がぐるっと円を描いて置かれているのがわかるであろう。これは音環(という表現がいいのかはわからない)で、ムーブメントのハンマーがこれを叩いて音を出す。一般に、長ければ長いほど音がきれいに響くといわれている、と思う。
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裏ブタは単にはめ込まれているだけなので、こちらもこじ開けで開けられる。美しいムーブメントである。耐震装置がないので、時代としてはかなり昔のものということがわかる。ちなみに、1950年代の時計である。
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ムーブメント近影。穴石の周囲がしっかり面取りされ研磨されているなど、非常に丁寧に作られた印象を受ける。ねじもしっかりしているのがわかるであろう。
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キドメねじを外し、ムーブメントを取り出す。
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横から。必ずばらすときに、横から写真を撮り針のクリアランスを記録しておく。これが組みつけの時に大変役に立つ。
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横から。これインデックスも針もギョーシェも良すぎでしょ!?
少しはみ出ている歯車は、ベゼルの内側の歯車と連携してアラーム用のゼンマイを巻き上げるもの。
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アラーム用ハンマーはコレ。
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インデックスや針には経年のくすみが見られる。
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ばらしていくので針を外すのだが…開けてびっくり。この秒針のハカマを見よ!wめちゃくちゃ長いので引き抜くのに一苦労であった。これが理由で、前に整備した人が、ドライバーかピンセットをインナーダイアルに擦って、線傷がついてしまったのであろう。うーん、悲しい。
この秒針、しかもよくみると先端に向かってすこし膨らんでいるのだ。形がカワイイ。
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分針を取り外す。
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時針を取り外す。アラーム針の美しさが際立つ…この青い輝きを見よ。
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さて、ムーブメントをばらしていく。これは輪列受けを取り外したところ。
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角穴車、丸穴車を取り外したところ。
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香箱受けを取り外す。
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ベゼル。風防も傷だらけなので、ベゼルの金メッキに影響がないよう養生して磨く。
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養生したところ。
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少しだけ金メッキ部分を磨き、プラスチックは耐水ペーパーとサンエーパールで順番に磨く。まあまあきれいになった。
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さてこのムーブ、なんと・・二階建てなのである。↓はアラームモジュールの上下を分離したところ。アラームモジュールはサンドイッチのような構造になっていて、間にアラーム機構が収められている。それがそのままベースとなるムーブメントに乗っかっているだけであり、かなり大雑把な二階建て機構である。
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アラームの仕掛けについて解説。No.0のところがアラーム時刻になると押し下げられ、NO.1の部分の細いピンが解放される。これにより、No.2のゼンマイの力がNo.3の歯車に伝わり、この歯車がギザギザの歯を持つアラーム用歯車をぶん回し、それによりNO.4のハンマーが振動する、という仕組み。シンプルである。下に見えてる巨大な歯車は、ベゼルの回転を受けアラーム針を回すためのもの。
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このあと、さらに細かいパーツの洗浄、組み上げがあるのだが省略。上記のアラーム機構に気を付け、注油ポイントを見極めるのが重要。あとは基本的なムーブメントのOHでいえる。以下はすでに仕上がった状態。
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どうだ、、、この可愛さ。インデックス、針、ケース、すべて最高である。そのうえ、ベゼルを回転させてアラーム針をセット、しかもアラーム用動力を巻き上げるというとんでもない仕様。そもそも、アラーム時計でリューズが一つしかないというのは大変珍しいのである。
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…余談であるが、この時計、なぜか玄人受けがものすごくよい。海外の超有名コレクターや、ハイジュエラーのトップ顧客、個性的な名物コレクターなどがインスタのコメントなどでやたら反応してくださるのである。日本においては、高級時計専門誌Chronos日本版の編集長、広田氏が手に取り『これはすごく良いですね、欲しいです』と真顔でおっしゃっていた。僕と同じく機械式アラーム時計を愛する、結構ディープな女性時計コレクターが海外にいて、その方もずっと探していると言っていた。実は僕の手元に微妙にニュアンスの異なるこれと同じ時計がもう一本あるのだが、そちらも早く整備して手放すべきなのだろうなあとぼんやりと考えている。

これまた余談であるが、Wittnauerではこの素晴らしいシャークトゥースデザインのインデックスをもつアラーム機構がない手巻きのモデルが存在する。実はそちらも手に入れたくて探していたのだが、状態の悪いものしかなく(それでも超レア)当面の入手はあきらめたのであった。

と、以上、結構長く探してたWittnauerの珍しいアラーム時計の、さらに珍しいOHの記事でした。多分、Cal.10WAのここまで詳しい分解写真は世界でここにしかないと思う。

SEIKO BELL-MATICのオーバーホール その3

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さて、裏返して日の裏を組み上げていく。
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ほとんど写真がないw
淡々とカレンダーを取り付けるまで進む。

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カレンダー抑えを取り付けたら、その上に曜日のDISCを入れる。DISCに空いてる穴からオイラーを突っ込んで抑えを少しずらし、回転させつつはめるとよい。

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文字板の取り付け。見よこのコンディション!!めっちゃきれい。おそらくこれまで一度も手が入っていないため、新品のまま残ってきたダイアルである。湿気の浸食もなく、素晴らしい状態を保っている。こんな宝物を、この手で触れて感動。

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アラームインジケーターは外周リングになっており、上から乗せた後側面にあるおさえ板(?)で浮かないように抑える。スムーズに回ることを確認し、針を取り付けていく。
曜日の切り替わりとアラームを合わせ、12時の位置に針を取り付ける。

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針を載せたら・・・

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針オサエでぐいっと押し込む。アラーム時計は、押し込むときにアラーム抑えの分沈み込むので、しっかりと針を押し込まないと浮いてしまうので注意。力を変な方向でいれてしまうと、短針が曲がって文字板に接触してしまうので、慎重に、穴の大きさがあった針抑えを使う。

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磨いたケース、ベゼル、風防、裏蓋。ベゼル下は傷んでいるところはできるだけ削ったが、どうしても錆に浸食された跡は残ってしまう。でもこれはぜんぜんましな方である。
ベゼルはピカピカに磨いたのでギラギラしているw

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ケーシング。何度も何度もチリ吹きでホコリを飛ばし、確認しながら入れ込む。

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ケーシング終了、完成。見よこの輝き!!ベゼルのギラギラ度ヤバイ。

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ケースの傷は完全に取り切れなかったが、形を変えない程度に磨きこんで輝きを取り戻した。

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風防もクリア!視認性抜群。文字板はもはや神々しいレベルである。

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うーん、かっこいい…

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針のクリアランスチェック。実は一度お返しした後、秒針のずれにより分針が外れてしまったため、もう一度秒針の袴を締めなおして曲がりを取り除き、分針もよりタイトにはめ込んで調整している。

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組んだ後は実際の使用で問題がないかをチェックする必要がある。

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この輝き、どうだ・・・!ケースの形はシャープに保ったまま、小傷を取り除きクリスタルガードでコーティングすることでこのように美しい輝きを取り戻してくれた。

…と、いうことで、持ち主にお渡しして、今はストラップを選んでいるとのことであった。こちらから申し出ておきながら手間賃をいただいて直させていただいたSEIKO BELL-MATIC。全く同じモデルを持っているのだが、こんなに良いコンディションのBELL-MATICに触ったのは初めてであった。

長く時計趣味をやっているとこういう事もあるのだなあ、と有難く感じている。Tさん、どうもありがとうございました!

以上、SEIKO BELL-MATCのオーバーホールでした。

以下、その他写真集。1、2枚目は受け取ったときの写真。
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SEIKO BELL-MATICのオーバーホール その2

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さて、バラしていこう。まずは日の裏から。SEIKOのデイデイトムーブメントは、実用性を効率よく追いかけているオーラがひしひしと感じられて素晴らしい。きっと多くの社会人の企業生活をしっかりと支えてきた事であろう。

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目立った汚れのないパーツ。分解された形跡すらない、素晴らしい。

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カレンダーを外したところ。ばねはロディコを吸着させながら慎重にピンセットで取り外す。間違っても細めのドライバーを差し込んではじいたりしてはならない。


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次に輪列をばらしていく。単純明快な構成である。


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受けを外した状態、目が行くのはやはり左上のむき出しのゼンマイ。これはアラームを駆動させる用のゼンマイで、主ゼンマイとは独立して手巻きで巻き上げる。このゼンマイの収め方はBell-Maticの大きな特徴といえる。

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受けの裏側。古い油汚れがこびりついている。


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板状のコハゼ、三番車、四番車を外す。

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香箱も外す。この通りよごれがこびりついている。

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さて、これは二番車。
分針が取り付けられ一分回に一回転するのだが、この写真からわかるだろうか?根元のあたりに茶色い油汚れがびっしりついており、粘り気がとても強くなってしまっている。この歯車が回らないのが今回の時計の不動の原因といえる。

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洗浄にかける前に手でしっかりと汚れを落とす。するとこのようにすっきり!もっかい地板に戻してチリ吹きで空気をあててみて、抵抗なく回ることを確認する。


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次にアラーム機構、切替機構の分解を行う。

この時計は

1.時計機構
2.アラーム機構
3.日付・曜日機構

と大まかに三つに分かれていて、機能別に意識して分解していくと混乱せずに済む。


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バネも使われているため木で押さえながら慎重に取り外していく。


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切替機構には細かいギアがたくさん。アラーム時計は黒のグラフに比べてシンプルなイメージがあるが、切替機構はクロノグラフより部品も多く難しいと思う。
どうでもいいがこの台はSEIKOのS-682というもので使いやすくて大好きなのだが、プラスチックにはいっているスリットの隙間によくパーツがおちるので、このように分解や組み立ての時はセロテープで覆ってしまう。


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あらかた外した状態。あとはテンプの穴石などを外す。

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テンプ受けから穴石を外した状態で地板に戻す。こうすることでひげゼンマイの超音波洗浄ができる、とTwitterで教わったのであった。なんとリプライで教えてくれたのは自宅で時計制作をされている小栗大介氏。トゥールビヨンを自分で作ったりしているすごい人。


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分解したパーツはこのように細かく小部屋に分かれている弁当箱?のような箱に収め、ちゃんと写真でどこがどう固まっているかを残しておく。こうすることで、組み立てるときにねじの組み合わせを間違わずスムーズに進めていける。洗浄した後は同じ位置に戻すことで写真を見ながら間違いなく組み立てられる。

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メインスプリング。香箱の中は意外ときれいであった。ゆびで抑えながら丁寧にほどいて外していく。

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拭いてみると古いグリースの汚れが結構ついてくる。こちらも超音波洗浄の前にしっかり手で洗う。ベンジンをいれたガラスケースに入れてこすったりして汚れを落とす。


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超音波洗浄。位置を変えながら何度もやる。↑は最初にざっと洗っているところで、ケースはこの後プラスチック風防を外して磨いてまた洗浄して、、、というのを何度か繰り返す。ケースも、磨くたびに洗浄して研磨剤を落とす。

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水ですすぎ乾燥させ、終わったら注油しながら組み立てていく。


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組み立ては、分解の逆の手順で進めていく。また、ちゃんとマニュアルを読みながら進めていくのが重要じゃないと手戻りが発生したりして後で悲しい思いをすることになる。


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輪列も注油しつつ戻していく。


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切替機構が終わったのでアラーム機構へ。


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ちゃんとバネと石も注油して戻しておく。

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リュウズとアラーム用ボタンを戻し、動作を確認しながら組み立てていく。
アラームボタンを引かずにリュウズを引いた動作やアラームボタンを引いた(=アラームをONにした)状態でのリューズの操作など、パターン別にきちんと動くか動作を確認していく。

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それがおわったらカレンダー機構へ。

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カレンダー抑えを取り付けたところで、ある部品が箱に残っているのに気付いた。右下にある、星のような形をしたアラームを駆動させるための歯車である。さっき輪列組んだときに一緒にいれとかないといけなかったのを忘れていた

うーんこういう小ボケが作業効率を落としてしまう。もっともっと改善の余地ありである。


つづーく

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