時計のワインディングマシーン(自動巻き上げ機)を使う際の注意点
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最近始めたTwitterで、時計の巻き上げ機(ワインディングマシーン、以下オートワインダー)についての話題があったので覚書として。。。
目的を理解する
オートワインダーの目的は、以下のような要素が考えられる。
- 時計置き場として(必要要件)
- 時計を飾る目的で使用するもの(審美要件)
- 自動巻の時計を止めないためのもの(機能要件)
んで、このうち1と2が目的なのであればワインダーでなくても普通の時計ホルダーでも良いハズなのだが、どういうわけかゴージャスでかっこいいホルダー(特に斜め・縦型で時計を豪華に魅せる事ができるタイプ)はオートワインド機能がついている事が多いので、結果的にオートワインダーを買ってしまう事になる訳である。
大事な時計を、できるだけ審美性の高い状態で保管したいと考えているのは自然である。高い時計ケースを探していけば、かならずオートワインディング機能を備えるケースに行き着く。電動で動いてくれるので良さげに見え、グレード感も出てくるというのは理解できるし、実際に見ていてゴージャスで時計も映えるため、食指が伸びるというのも理解できる。
また、機能要件に関して、時計が止まりカレンダー機構が長い間止まってしまうと、次に使うときに調整等に一苦労する事になる。カレンダーでなくても、ゼンマイの巻き上げを厭う人が多い。その点、ケースから取り出してすぐに腕に巻いてつかえるオートワインダーはとても魅力的である。ここは、誰もが同意する所であろう。
オートワインダーのリスク
一方、オートワインダーが賛否両論ある理由としては、使用にあたりリスクが発生するからである。静音性や巻き上げ方向の指定などの機能要件はおいておいて、以下のようなリスクが考えられる。
- 電気系統の故障による出荷・発熱リスク
- 磁気帯びリスク
- オートワインド機能により断続的に巻き上げられる事による時計内部の機械への負荷
んで、このうち電気系統の故障に伴うリスクは電化製品としての一般的リスクなので時計に特化していないのだが、磁気帯び、及び内部機械への負荷については時計特有のリスクとして考慮が必要になる点が、ポイントだと考える。
時計内部へのダメージリスク
では、時計内部へのダメージとはどのような事が考えられるだろうか?
まず思い浮かぶのは駆動系・調速機構へのダメージである。機械式時計のゼンマイというのは、きっと、ほとんど多くの人は直接触ったことがないと思う。僕は何度もこのゼンマイを手動でセットしたことがあるので分かるのだが、このゼンマイというのはものすごい力で香箱に詰まっていて、それを押さえるための調速機構も、ものすごい力を受けている事になる。
だから、時計の運針を常時行うというのは、小さな見た目からは想像もつかないくらいの力を常時かけ続けることになる。機械にとって一番良いのは、ゼンマイが完全に解けた状態、つまりトルクが0の状態であって、この状態を長くキープすることが機械の寿命を永らえる事につながる。これはよく覚えておいてほしい。
また、大事なことは、ゼンマイが少しでも巻かれている状態であれば、時計への負荷はかかり続けているという事である。よく、巻き上げきった状態が続くのが良くないと思っている人がいるが、90%巻き上げられた状態と20%巻き上げられた状態は、どちらも機械に負荷がかかっているという時点で等しく悪い(もちろん負荷の大きさは変わる)。
駆動系のほかは、自動巻き機構へのダメージである。常に動作し続ける部分である自動巻き機構はそれだけ摩耗や故障も多い。時計を止めないために巻き上げ続けるためにワインダーを買い、それによって自動巻き機構へダメージを与えることになっては元も子もない。回る速さは特に部品に影響するため、注意してほしい。回転速度が早ければ早いほど、当然負荷も高い。
時計の機械を長持ちさせないなら動かさないこと、これに尽きる。オートワインダーはこの原則に真っ向から立ち向かっているため、時計愛好家からの非難も絶えないのである。
ちなみに、巻き上げ方向とは逆にセットしておけば、すくなくとも上記2つのリスクのうち、駆動系へのダメージは軽減できる。
では、どのように使うべきか
僕の個人的見解で言えば、オートワインダーは、時計を保管するケースとして、また、その美しさを空間と調和させ、その場の誰か、あるいは自分自身と共有するにはとても良い製品である。審美性の高さや機能性の高さから製品の意義自体には大いに納得できるし、なんならカッコいいのがあれば僕もほしい。
ただし、電化製品としての使用リスクに注意を払うこと、および時計内部の機械への負荷は最小限に留めることを忘れないようにしたい。具体的には、
- 信頼できるブランドの製品を買う。不良品報告や事故の報告が無いことをしっかりと確認する。
- 動かさない時にはすぐ主電源を切る、あるいは電源を抜くことができる製品を選ぶ。
- できるだけ香箱が”低いトルク”の状態を保ちつつ、”断続的”に”低速”で巻き上げ続ける設定が可能な製品を選ぶ。
- ただの時計ケースとして使う。
- 手巻き時計を入れ、無駄にくるくる回る様子を楽しむ。笑
以上、オートワインダー、あるいはワインディングマシーンに関する一考察でございました。読んでいる方の時計ライフに、少しでもお役に立てれば幸いです。
*ヴィトン特注のウォッチワインダー、お値段たったの1000万円なり。