SEIKO BELL-MATICのオーバーホール その1
とある縁からとある時計を預かることになった。それは・・・SEIKO BELL-MATIC。いわずと知れた国産アラームの名品で、高度経済成長期に多くの企業人を支えたであろう機械式アラーム時計の代表的なモデルである。
持ち主の方曰く曾祖父の遺品らしく、不動の状態で見つかったとのことで、写真とともにTwitterでつぶやかれていたのであった。
通常であれば「おお!僕が持ってるのと同じモデルだ!」と思うだけでイイネを押して済ませるところだったのだが、かなり偶然のご縁があり、どうしてもこの時計をちゃんと動けるようにしたいなあと思ったので、修理を申し出たところ快諾していただいたのであった(無料ではないにも関わらず)。
んで、とどいたのが↑だった。丁寧に梱包されていたうえ、地元のお菓子が同梱されていたのでとても美味しく頂いてしまった。
さて、時計を見ていこう。
固着していた裏蓋をがんばって開けたら、錆と汚れが結構詰まっていた。しかしパッキンによってムーブメント中身への浸食は最小限に抑えられていて、状態は悪くなさそうだな、というのが第一印象。
ムーブメントを抑える細い針金の部品が錆にやられている。この部品は割れてしまっている個体も多い中、錆にやられてるだけで無事であったので一安心。あとでやすりで丁寧に錆を落とせばよろしい。
やはりムーブメント本体は無事そう。
自動巻きローターを取り外したところ。
リューズ(小さい穴を押すと取れる)とアラームボタン(長方形の板の様になっている部品を押すと取れる)を抜いて、ムーブメントをケースから取り出す。
文字板はこの通りミントコンディション。たまらない。とても美しい。
表面にはうっすいフィルムを張ってあるのだが、中央に向かってサンレイ模様のごとく細い線が入っている。インデクスや針には一切夜光が入っていない。ビジネスマンにはオフィスで夜光など不要だ。多分。表記も最低限で大変好感が持てる。諏訪精工舎のロゴが誇らしい。
↓は自動巻き機構を取り外したとこ。ドライバーやピンセットの擦り傷が全くない、ねじもきれいなままであるという事は、これまで誰も整備したことがないという事であろう。
しかし肉眼でも穴石の周りなどに、古い油が鉄粉と混じり固まってしまっているのが見える。一刻も早いクリーニングが必要な状態である。
針のクリアランス。秒針が分針に触ってしまっている。
ばね棒のささるラグ穴も錆と汚れでつまってしまっている。
なので、最初からついていたばね棒を取り外すのに少し苦労した。
風防・ケースはこの状態。こうやってみると汚れて見えるが、これは大したことはない。プラスチック風防は磨けば輝きを取り戻すので、こんなに汚れているように見えても心配無用。
ただ、この風防とベゼルの間の錆?汚れ?が気になった。かなりの面積が侵食されている。きれいになるといいなあ…
ベゼルのこじ開け口を探し、マスキングテープで養生してから研いだこじ開けを力いっぱいまっすぐ差し込みいれ、ベゼルをこじあける。ここでこじ開けをひねったりするとベゼルやケースにダメージをあたえるため、まっすぐ差し込むのに意識を全集中させる。
とれた。
うーん、よごれは想定以上に詰まってしまっている。ただ錆ではなく固まった皮脂?のように見えたので、根気よくこすればきっときれいになると信じている。
もう40年近く、あるいはそれ以上の時をかけて蓄積された汚れが、ぽろぽろと落ちてきている。すぐ奇麗にしてやるからね、と心の中でつぶやく。
錆を、油さしの先端を加工した道具で少しずつ少しずつ削る。
これは錆取り剤に漬ける前に、できるだけ大きな錆を取り除いておくためである。風防の側面は平べったいドライバーをこすって汚れを落とす。
さて、ムーブメントの分解に入る。
針を丁寧に取り外す。サランラップをかぶせ、一番小さなドライバー二本を使い秒針を取り除いた後、分針と時針を合わせて剣抜きで抜く。こんなに美しい文字板にダメージを与える事が万が一にもないように、細心の注意を払って針を取り除く。
側面に二つ、アラームセット用のリングをとめるねじがあるので、それをゆるめてアラームリングを取り外す。と同時に、別に2つ、文字板の足を固定しているねじがあるので、それもゆるめて文字板を取り外す。するとこうなる↓
銅色の薄いリング状のシートと、曜日の書かれた円盤を取り外す。ねじを外す必要はない。
日の裏が出てきたが、きれいなものである。ねじも一切傷がない、素晴らしい。
三本線が入っているように見えるねじは、逆向きに回して外す必要がある。
つづーく。
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