腕時計にまつわる二つの奇譚
世の中は広いようで狭いもの。
僕が実際に体験した、腕時計に関わる2つの奇跡的な出来事を紹介したい。
まずはこの画像。
数年前、ある海外の島に旅行した際に、滞在していたリゾートホテルの朝食ビュッフェのときに撮った一枚。
時計はBELL&ROSSのVintage 126。ハイグレードのValjoux 7750をベースとして2カウンターにしたもので、機械の精度は抜群。ダイアルはその名の通りビンテージ時計にインスピレーションを得たデザインをしており、シックな黒文字板にどこかレーシーな風情も相まってよくまとまっている。ケースもさすがBELL&ROSS、少し大ぶりではあるがシャープで装着性も良い。革ベルトがついてきたのだが、この画像ではスピードマスター用?のブレスレットを無理やり装着して使っている。
ほんとうに何気なくとったリストショットだったのだが、この画像の右奥に、コーヒーを飲んでいる女性が映っている。
なんとこの写真を撮った二年後、このたまたま背景に写りこんでいる女性が、僕が東京で社会人として就職したばかりの時の同期だったという事が分かるのであった。
実はこの写真を撮った時、サラダバーにサラダを取りに行くときにこの女性をちらっと見た。そのとき、「あれ?どっかで見たことある気がする」と思ったのだが、先方も僕をちらっと見ただけで特になんの反応もなかったし、まぁどこかの誰かの他人の空似なのだろうと判断した。そして月日が流れ、同期同士でLINEか何かで会話する流れになったのだが、たまたまその女性が、2年前にとある海外の島に行ったことがある、と発言した。僕も同じ時期に行ってたので、『同じ時に僕もいたなあ』と思い、その時の写真を見返した。そしたらこの一枚が出てきて、『あれ?まさかあの時の…!?』と思い慌てて本人に、何年の何月何日、〇〇というホテルに泊まっていなかったか訊いてみたら、まさかの『え!?多分それあたし』。
画像を見せたら、疑いようもなく本人であった。ご丁寧に娘さんはこちらを眺めていた。新卒の時共に研修を受けた同期が、東京から何千キロも離れたとあるちっぽけな島の、さらに幾つもある中の同じリゾートホテルに同じ日に滞在し、たまたま隣のテーブルで朝食を摂っていた。こんな偶然あるのだろうか。いや、僕にあった位なのでそこら中にありふれた偶然なのであろう。
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ではつぎの話はどうか。
これまたとある海外のとあるデパートでの出来事だった。
僕は同行者がお手洗いに行くというのでトイレの外で手すりにもたれて待っていた。するとすぐ右に、同じように手すりにもたれ連れを待っている現地の人がいたのだが、僕は彼の腕に光った時計を見逃さなかった。現行のJLC Memovoxである。僕はブログで度々書いている通り、Memovox E855の信者であり、その日も腕にE855を巻いていた。
なんたる偶然。Memovoxをわざわざ巻いているという事は時計好きと見てまず間違いないため、お互い暇であろう待ち時間でもあるので思い切って声をかけてみることにした。
"Excuse me sir, I just noticed the watch on your wrist,, is that Memovox? (すみません、あなたの腕時計について気になっているのですが、それはMemovoxですか?)"
"Ah yeah, correct. I love this watch! You like watches? (ああ、そうです、僕のお気に入りなんです。あなたも時計が好きなんですか?)"
みたいな感じで返してくれたので、僕は自信満々の顔で腕を上げて自分のMemovoxを見せた。彼はとても驚いた顔を見せ、次の瞬間相好を崩していつの時計なのか、どこで手に入れたのか、もっとよく見せてほしい、などと楽しい時計談義が始まったのであった。
お互い同行者がまだ出てこなかったため、Memovoxの話が落ち着いた後にお互いの仕事の話などになった。まあ初対面なので会社名も、もちろん自分の名前も明かす事はなかったが、僕が普段している仕事の話や業務形態、ロケーションなどをつらつらと話をしていたら、ふと相手が真顔になって固まっている。なんかマズイ事いったかな?と思った次の瞬間、彼は僕の話をさえぎって低い声でこう言ったのであった。
"Wait, are you... XXXX-san? (XXXは僕の苗字)"
いきなり、僕は自分の名前を当てられ酷く驚いて狼狽した。どういう表情をしていたかも覚えていないが、混乱しつつも「え?まあ・・・そうだけど、なぜそれが分かったの??」とつぶやき、自分の持ち物にひょっとしたら名前が書いていたのかもしれないと思いきょろきょろと辺りを見まわした。
すると相手は目を真ん丸にしながらこうまくしたてた。
『XXX-さん、実は先月、△△国からWEB会議であなたのチームと会議をしたものです!!お互いビデオもONにしていたのであなたの顔を覚えていました!』
結構な数のWEB会議で初対面の人と話をする事があるので僕は申し訳ない事にいちいち相手の顔を覚えていなかったのだが、言われてみると目の前の人物とZOOM越しに話をしたような記憶がよみがえってきた。
"What a small world! I can't believe it (なんて偶然なんだ、信じられない!!)" と僕は声を抑えて叫び、全く意図せぬ再会を喜び合ったのであった。インスタも交換し、彼のコレクションも見たがまごうことなき時計愛好家のそれであった。
海をまたいで商談した相手と、外国のあるデパートの、ある階の、トイレの前で、しかも同行者を待ちながら、しかも腕に同じ時計を巻いて、僕から話しかけて再会したのであった。場所は同じでも、もし僕が時計を見逃していれば起こりえなかった。いや、時計に気づいても、僕がMemovox以外の時計を巻いていたらあえて話してなかったかもしれない。もし時計の話をしていても、どちらかの同行者が先に出てくればそれで「じゃあね!」と、話が終わっていたかもしれない。でも、そうはならなかった。奇跡的な再会は、ちゃんと果たされた。
こんな事ってある?
こんな事があるのが、リアル社会であり、こんな事も起こせてしまうのが、時計愛好家同士の奇縁というものなのであろう。
以上、非常に印象深い、腕時計に関する2つの奇譚のご紹介でした。
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